死刑制度もうひとつの“不思議”

連続幼女殺人事件犯人の宮崎被告の死刑が執行されたらしく、死刑制度についての議論が盛り上がっています。

問題になっているのはこんなところかな。

(1)死刑の是非
(2)死刑執行を決断する法務大臣の恣意性
(3)死刑になる基準
(4)死刑囚の扱いや死刑方法に関する議論


(1)については 前に書いたことがあるので、今回はパス。

(2) は、ここ 2代の法務大臣が粛々と刑の執行をしているため、議論が高まっています。


(3)はよくいわれる「殺したのが一人の場合は無期懲役になり、死刑にはならない」「犯人が未成年の場合は死刑にならない」といった「死刑になる条件」の妥当性。

(4)も「なにが残酷で許されない方法なのか」といった議論があります。


今日はこのうち (2)の、死刑判決と死刑執行について。

死刑の判決は(当然のことですが)裁判所で出されます。でも、死刑が執行されるかどうかは「法務大臣の心ひとつ」なんだよね。

つまり死刑判決が確定していても、法務大臣が執行を命じないと(書類にサインをしないと)死刑は行われない。

裁判所が決めた判決を(司法ではなく行政側にいる)法務大臣が無視しても問題にならないなんて、すごく不思議。


★★★


法律上は=刑事訴訟法には「死刑は確定後六ヶ月以内に法務大臣が執行を命令すべし」と書いてあります。

でも、実際には何年も執行されないことがよくあります。

何十年も死刑囚のまま刑が執行されないケースがある一方で、池田小学校に切り込んだ宅間被告のように、一年で死刑執行される場合もあり、

どの死刑囚が先に執行されるかは、事実上、法務大臣(法務省の官僚?)が決めてるわけです。


このため「死刑確定囚」の数はけっこう多くて、現時点で 102名くらい。うち 70名程度は 2000年以降に死刑判決が出た人です。

反対にいうと 30名程度、非常に長期間、死刑が執行されていない人達がいるってこと。

中には拘置期間 40年みたいな人もいます。そして最近は死刑囚のまま病死する人もいる。

たとえば、80才以上の死刑囚の病死なんて、事実上「死刑囚として天寿を全うする」という意味不明な状態になっています。

日本における死刑囚の一覧 - Wikipedia
日本における収監中の死刑囚の一覧 - Wikipedia


何十年も死刑が執行されない死刑囚には、いくつかのパターンがあります。

(1) 冤罪の可能性がある人
(2) 病気の死刑囚
(3) 宗教のグル
(4) 外国人
(5) 他の人の裁判で、証言させたい人
(6) 報復を怖れて?


(1) の冤罪の可能性のある死刑囚は、大半はかなり昔の事件で「これは冤罪でしょ?」と多くの人が思ってる事件が多い。

戦後のどさくさや、今と違って科学的な捜査もできなかった時代、しかも、社会差別が根強かった時代の事件では、「あいつはあの地区の生まれだから犯人に違いない」みたいな逮捕をされた人もいます。

こういうケースについては、法務大臣も執行にゴーサインが出せない。(てか、だからといって死刑囚として拘束を続けてるのはどーなの?って話ですが)


(2)の「病気の死刑囚」は扱いが難しい。

死刑囚でも病気になれば入院させたり治療を受けさせたりするのだと思いますが、そうなると、「治療すべき人」なのか「死ぬべき人」なのか、真逆の方向で国家が手を貸すことになる・・・


(3)は・・・イエスキリストの処刑からの学びですかね? 

権力に惨殺されることで神格化されてしまう。それを避けるために生かしておくケースもあるらしい。

でも、グルがこの理由で死刑を執行されずに残されると、部下の死刑を先に執行することもできず、一緒に逮捕された部下もみな長期拘留になってしまいます。

サリン事件とか、麻原以外にも死刑判決がでていますが、麻原を生かしたまま部下だけ死刑を執行するのは不可能でしょう。


(4) 外国人の死刑囚の死刑を執行しずらいのは、国際問題になるのを避けるためです。

特に犯人の出身国で死刑が存在しない場合、制度論になるのを避けるという意味合いがあるのだと思われます。

あと、先進国や同盟国の人の死刑で本国から“ものいい”がついてるケースも難しい。


そして(5) これは共犯が捕まっていないなど、後々の他の人の裁判で証言させるために、生かしておく必要がある、というケース。

実は、70年代に捕まった新左翼系のテロ犯人には、死刑が執行されないままの人がたくさんいます。

たとえば、
・仲間のリンチ殺人事件(連合赤軍)・・・永田洋子、坂口弘
・三菱重工ビル爆破事件(東アジア反日武装戦線)・・・大道寺、片岡、大森(この人は北海道庁を爆破)など。

いずれも 1970年代の事件で、死刑判決は 15〜 20年前に確定しています。再審請求が行われているケースもありますが、冤罪の可能性はゼロでしょう。

「思想犯だから死刑はダメ」って言う人もいますが、冗談でしょ。彼らは単なる無差別殺人犯、テロリストです。

単に「まだ仲間で捕まっていない人がいるから」、その時の公判維持のため執行されないのでしょうが、さすがに期間が長すぎでは? って思います。


(6) それ以外では、「警察や検察(法務官僚、法務大臣含む)が報復を恐れているから」というのも、あるんじゃないかと。

たとえば・・・超有名暴力団の組長とか、執行命令にサインするの、法務大臣だってすごく勇気がいると思いませんか? 家族への報復とか、ありそうじゃない?

ただ、これがホントだと「権力が暴力を怖れて法律執行をしない」という話になり、かなり大きな問題になりそうですけど。


★★★


まっ、いろんな理由があって死刑が執行されないんでしょうが、反対に、世間の耳目を集めた事件ではすごいスピード執行だったりもするし、

「死刑判決の確定」と「死刑執行」の間にこんなに大きな差(裁量範囲)があって、しかもその判断が(下手すると 1年で交代する)法務大臣ひとりに委ねられてていいの? という疑問はやっぱり残ります。



そんじゃあね。


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