180度変わっちゃう

昔(だいたい20年くらい前を想定)は親が海外勤務の場合、子供が男の子だと高校生からは母親と子供だけは日本に帰国する、みたいなケースがあった。それは息子を日本で大学に進学させたいからであり、そのために必要な勉強を日本でさせるため、ということだった。

当時は海外で大学を出ても、日本の受験ヒエラルキーでは“番外”扱いになってしまい英語屋的な仕事以外の“まとも”(とされる)仕事に就けない、という“常識”があったのだと思われる。また、いわゆる“帰国子女枠”なるものは一流の国立大学ではまだとても限定的だった。

なのでわざわざ「男の子が大事な時期なので」と母親と一緒に一足先に帰国、みたいなことまでしていたのだ。


今時はこういうケースは非常に少ない。息子が優秀なら海外の一流大学に進めるだろうし、そうでない場合(いわゆる勉強的に優秀な息子でないなら)なおのこと、海外で英語だけでも流暢になった方がその後の就職でも超有利、というのがたいていの親が考えることだ。

それどころか今や何の縁もなくても子供の教育を海外で受けさせたいという親はたくさんいて、留学どころか日本にいてもわざわざインターナショナルスクールに通わせるのが流行るくらいなのに、親の都合で海外で暮らしてるのに子供だけ早く日本に帰らせようなどという親は少なくとも欧米に居住するケースでは極めて少なくなっていると思う。*1

ずいぶん変わったもんである。

★★★

ところで最近は日本にも日本語がぺらぺらの中国人の人が多い。彼らは日本に留学して日本で働いて・・・ところが、中国人同士で結婚して子供ができると、子供の就学年齢のタイミングで「子供の教育のために中国に戻る」と言い出す。

上の裏返しです。ちきりんが聞くと言いにくそうにしてはいるが(それでも彼らははっきり言うのだが)「日本の学校は教育レベルが低いから心配」なんだって。だから子供には中国で教育を受けさせたいと。

しかも「日本は空気もきれいだし食べ物も安心でおいしい。ずっとこっちに住みたいけど、でもやっぱり子供の将来が心配で」中国に戻ることにしました、みたいな。

清華大学とか復旦大学とか、日本に付属校でも出したらすんごい流行るんじゃないかな。在日中国人の師弟市場で。と思わされる。


昔の日本人家庭みたいなケースも最近は散見される。父親は仕事の都合で日本に戻り、お母さんと息子だけが中国に帰っていく・・・


★★★

現在、日本人の在外居住者って北米より中国の方が多くなってると聞いた。ところが子供の教育方針事情はこのふたつはまだ大きく違う。

アメリカに父親が勤務することになると、非常に多くのケースで家族が一緒に渡米している。そして、子供は(昔と異なり)多くが現地校に通う。もっと言えば「子供を現地校に通わせられる地域に家を探す」と言ってもいい。アメリカは地域によって公立校のレベルが非常に違うので、いいエリアを探せば子供を安心して通わせられるからだ。

反対に、中国駐在の場合、まだ父親だけが単身赴任というケースが多い。赴任先が北京や上海か、もしくはもっと不便な場所かという違いもあるだろう。しかしたとえ北京、上海でも、子供が一定年齢以上の場合は家族がついていかないケースはまだ結構あるようだ。

ましてや、子供を「現地校」に通わせよう、という家庭は非常に少ないのではないか。中国にもいわゆるエリート中学校や高校は存在しており、外人の子供でも絶対入れないわけではない。(もちろんアメリカほど外人受け入れに慣れてはいないが。)それでも親はインターナショナルスクールか日本人学校を選ぶケースが大半だ。

これは韓国などでも同じで、親にしてみると「子供が英語が話せるようになるのはすばらしい。」が「子供が中国語や韓国語が話せるようになっても仕方ない」ということらしい。


でもねそのうち、「子供の頃に自然に中国語が学べる機会があるのに、現地校に通わせないなんて、なんてもったいない」という時代も、20年もしないうちにくるんだろうな、と思う。過去の変化を見ていると、そういうことが起ると予測するのは全く不思議じゃない。

親っていうのはいつの時代も、時代からだいたい30年ずれている。そう。親は「子供は、親が生きてきた時代を生きる」と仮定してる。その差が30年なのだ。


★★★


既にあちこちで聞く話ではあるが、最近の大学生に聞くと就職活動時の彼らの外資系志向がすごく強いことに驚かされる。

で、「なんでそんなに外資系に行きたいの?日本企業に行きたくないの?」と聞いてみると、こういう人がいるのだ。

「絶対外資系というわけでもないんですけど、先輩を見ていると優秀な人はみんな外資系に行っているから。」って。


これも20年くらい前の状況を知っている人には信じられないことだと思う。



他にはこういうこと言った子もいたよ。「父が外資系を勧めるから」って。で、「お父さんはどこにおつとめなの?」と聞くと、「三○物○です。」って、財閥系の一流商社の名前を挙げる。

おいおいお父さん、って感じです。



これもまた20年後には「お父さんが勧めるから○○公司を希望してます」とか「優秀な先輩はみんな欧米系か中国系の会社に勤めているので・・」とかいう時代になるんでしょうか。



大丈夫かな、この国。



*1:むしろ子供は生まれてから18までずっと海外生活のためアイデンティティ確認のために日本に帰国する、という“アイデンティティ帰国”が結構多いかもね。