先日のメディアの攻防に関しての続編です。
数年以内にネット&モバイル広告が新聞広告を抜くのはほぼ確実としても、この世界、次の10年となると正直何が起こるのか、今の時点で予測するのはとても難しい。それは過去のデータの変化を見ても明らかです。
たとえば 1999年のデータには「ニューメディア広告」という項目があるのですが、翌年には消えています。
今となっては、いったい「ニューメディア」とはどのメディアのことだったのかさえわかりません。
ちなみにその年のデータでは、「ニューメディア」と「インターネット」は別々に集計されています。
つまり、ニューメディアとはインターネットのことではなかったんです。もちろんモバイルネットでもありません。
じゃあ、いったい何!?
って感じでしょ。
実はその翌年のデータでは、ニューメディアという項目自体が消えてしまい、代わりに「衛星メディア関連広告」と記載されています。
なんと、ニューメディア、というのは衛星テレビのことだったのね!
そういえば今はスカパー!とか言ってるけど、確かアレもスカイ社とパーフェクト社の 2社だったんだっけ?とか、他にも別の衛星放送会社があったっけ?とか、衛星BSとかいってやたらと宣伝していた時期があったような、とか、次々と昔の記憶がよみがえります。
また、2007年には「フリーペーパー&フリーマガジン」というカテゴリーが初登場しており、「そうか、ここらへんからは R25とかが無視できなくなったんだな」と思い当たります。
このように広告メディアの世界はとても流動的。
“かわら板”の世界から脈々と数百年を生き抜いてきた新聞様から言わせれば、どいつもこいつも「新参者」に過ぎないのかもしれません。
★★★
さて、ここまでの変化がこれからも起こると考えれば、2018年のデータ項目が今年と同じ項目である可能性自体がまず非常に小さいと考えるべきでしょう。(また、こういったデータを集計しているのが数十年後も電通なのか? というのも興味深い問いです)
たとえば今はインターネット広告とモバイル広告は総額で表示されていますが、ほどなくこの二つは分離されるのではないでしょうか。
ネットよりモバイルが大きくなることだって考えられます。来年からこの二つを別々に集計すれば「ネットが新聞を抜く日」を1〜2年遅らせることも可能ですしね。
また「けーたい」と「スマートフォン」や「iPhone等のブラウザフォン?」が別カテゴリーになっている可能性もあるでしょう。
その他、今はまだ存在しない全く新しい概念のハードが広告メディアとして出てきていても不思議ではないです。
また、現在の分類を混ぜたような形態、テレビなのかネットなのか区分しにくいような形態、がでてくることを予想する人もいるでしょう。
というわけで将来予測という意味では、先日のような「現在のメディアが 10年後にどうなるか」を推測するのもいいのですが、どちらかというと、その項目名である「メディアの種類、分類」がどうなるか?ということを想像するほうが楽しい気がします。
★★★
もうひとつ元データの分類でおもしろい点があります。
このデータによると、日本の広告費は大きくわけてふたつに分類されています。ひとつが「マスメディア」、もうひとつが「販促プロモーション」です。
マスメディアの方は、伝統的な4媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)とネットです。
一方の販促プロモーションは、DM,折り込みチラシ、交通(中吊り広告や駅の広告)、屋外(看板、今は街頭大型スクリーン?)、POP(店頭プロモーション)、イベント系などの合計です。フリーペーパーとフリーマガジンもこちらです。
大きな違いは「マス」か「ローカル&リージョナル」か、でしょうか。
そして、販促プロモーションの大半は、都市圏に集中してます。
そもそも通勤にJR,私鉄、地下鉄がヘビーに使われているのは首都圏、横浜、関西圏くらいでしょ。だから「交通広告」なんて地方では存在しないんです。(田舎のローカルバスにも広告はでてますが額的には微々たるもんでしょう)
新聞の折り込みチラシも、東京の中心の商業地やオフィス街では全然入りません。過疎地域でも入っていません。
分厚い折り込みが入るのは中堅以上都市の住宅地だけです。しかも「徒歩圏にあるパチンコ屋やスーパーのチラシ」が中心という非常にミクロな範囲の販促伝達メディアです。
なので、現在の元データでは、この「全国一律の“マス”メディア」と「ローカル販促ツール」を区分して集計しているわけですが・・・これも将来は変わるかもしれないですよね。
だって、誰が考えても一番「ローカル」に対応できる広告メディアは「携帯」です。
持っている人の住んでいるエリアが判断できるんだもん。その人が移動しても「今その人がいるエリア」を勝手に探ることさえできるわけで。
迷惑メールが問題になってるから全く普及しないけど、今後は「今いる場所」に応じた広告が携帯に届く世界も十分に考えられるはず。
ちなみに、“マス 4媒体”の広告費に占めるシェアは 1999年には 65%でした。それが 2008年には 49%です。これ、いったい10年後には何%になるのでしょう?という点もとても興味深いです。
マス広告がゼロになるとは思いませんから、必要最小限のところまで落ちて下げ止まるはずなのですが、それが 2割なのか 1割なのか、知りたいところです。
★★★
もうひとつ。昨日のコメントにもありましたが「受動的な態度の人にも広告を届けられるメディア」がテレビ以外に出てくるのか?という点も注目です。
たとえば、新聞、雑誌はもちろん、ネットもクリックが必要で、見ている人が「能動的に」なにかしないと広告が目に触れることはありません。
しかし、テレビやラジオは違います。多くの人はテレビを「ながら」で視聴しています。「ながらメディア」で流される広告は完全に受動的な人にも届きます。こういう広告は一定量つねに求められるでしょう。
たとえば花王がアタックの新製品を出したとしましょう。
この「新しい洗剤!」はどこで告知すればいいのでしょう?
ネットで?? 携帯で??
ちょっとイメージしにくいですよね。
主婦は忙しいのです。一日に何時間もパソコンの前に座ったりしていないし、暇に任せてあちこちの広告サイトをクリックしたりもしないでしょう。
掃除や炊事や洗濯や食事をしてる間中テレビがついていて、境目のない形で番組と広告を流している。消費者は画面を見ている必要さえ有りません。必要な時、気を引かれただけ目をそちらに向ければいいのです。
「新しい洗剤がでた!」という広告サイトを能動的にクリックする人はいなくても、同様の趣旨のCMが掃除中に流れたら「あら、私がいつも使ってる洗剤が新しくなるんだわ」と記憶に残す人はたくさんいます。
特に何かアクションを起こさなくても「スイッチだけ入れておけば」広告が流される、という意味でテレビは他のメディアと圧倒的に違うのです。
でもネットにもこれらを取り込もうとする動きはあるようです。
いくつかのニュースサイトは、表示の最初にまずCMだけが表示され、記事の読み込みがかなり遅いですよね。事実上「無料ニュースを読む前に強制的にCMを観させられている」と感じることがしばしばあります。
また、ブロードバンドの月料金は今 5千円前後だと思いますが、「たとえば 2時間に一度、ブラウザーがいきなり 15秒のCM画面に変わってしまう」ということを条件に、これらの月料金をゼロにしてくれるといわれたらそちらを選ぶ人はいるかもしれません。
最悪なのは“パソコンがあまりに面倒すぎるハードである”ということですが、何度もトライされているテレビ画面の利用が普及すれば、液晶に映るCMがテレビ広告なのかネット広告なのか区別しにくい時代もやってくるかもしれません。(パソコンというハード自体、10年後に残ってない可能性大アリです)
というわけで、先日書いた「それぞれの広告メディアのシェアの変化」と同時に、もしくは、それ以上に
(1) 広告メディアの種類は、次の 10年でどう変わるか?
(2) マス広告の比率はどこまで低下するのか?
(3) 受動的広告メディアとしてのテレビのシェアを、ネットは奪えるか?
という3点はとても関心の持てる点です。
この世界はほんと楽しみ。