人材の最適配分

“天下り”って官僚だから(国民の税金である予算が配分されるという点では)問題になるけど、この仕組み自体は実は大企業はどこでも同じことをやっていますよね。


社長はいろんな役員と仕事をしながら次第に自分の後継候補を絞り込み、「次はこいつに任せたい」と最終的に一人に決める。

新社長が決まると他の役員は次々と子会社に転出する。元の立場(専務かヒラ役員かなど)によって重要子会社の社長になったり、小さめの孫会社の副社長にもなる。

外に出るのは、直接のライバルだった役員達だけではない。破れた役員達の“それぞれの子飼いの部長”らも主流業務からははずされ、子会社などに出ていく。

大企業においては部長より上になれば、仕事の能力や成果に加え“どの役員についてきたか”という政治的な立場もとても重要だ。


一方で新社長は、転出させた人の後釜に「自分の部長達」を昇格させ脇を固めていく。彼等は、引き上げて貰ったご恩から新社長に忠誠を尽くしつつ、次のヘッドになるチャンスをうかがい始める。

★★★

日本は和を重んじ礼節を旨とするので、新社長は出ていく元ライバルらを丁寧、丁重に遇する。

彼等の新しい仕事は、たいしておもしろくないかもしれないが、社長の肩書きにふさわしい社長室、専用車、秘書、報酬、が約束される。高級官僚の“わたり”にあたるような、玉突き人事もよくある話だ。こうして「処遇だけ」は完璧に整えて出て行っていただく。

つまり、官も民も大組織はみな同じことをやっているわけで、ある種の合理性がある制度なんでしょう。おそらくこの仕組みがないと全然若返らないのですよ、経営陣が。


日本だけでもない。アメリカでGEがウエルチ氏の後継社長を選んだ時は、後継候補だった数人の役員達は、ひとりがGEの社長となり(イメルト氏)、他の人達はその後、他社の社長になっていった。

アメリカだって、複数の社長候補の中からひとりが社長になった後、残りのメンバーは他社にでていくわけです。自分と競い合っていた人の部下になったりはしない。

ただ、アメリカの場合は「経営者の転職市場」が存在するから、自分で他社の社長職に転職できるけど、日本の場合はそういう市場がないので、民間でも官庁でも次の就職を“組織としてアレンジ”せざるを得ない。「市場がないから、組織がアレンジ」というのは、まさに日本的なやり方ですね。


こう考えると、ちきりんも「天下り禁止」には賛成だけれど、民主党のいう「みんな定年まで働いてもらう」案がベストなのか悩ましい。

「誰かが社長になったら、その世代の人は後進にポジションを譲って出て行く。このことにより定期的に組織の若返りと活性化を図る」というのは悪くない“リーダーシップ委譲の方法論”かもしれない。

アメリカみたいにそういう人の転職市場が存在するなら=労働力の流動性が高い世の中であれば、なんの問題もない。

「全員、定年まで霞ヶ関にいろ」なんていったら、そうでなくても時代に遅れた人の集まってるエリアなのに益々高齢化が進んで・・・どうなることやら、とも思えます。。

★★★

ライフネット生命の出口社長が自著の中で「新しい保険会社を起業するという機会を得られたことは宝くじに当たるにも等しい幸運」であり、「誰にでも与えられるわけではないすばらしい機会を得たのだから、必死で頑張らないといけないと思う」というように書かれていた。

それをみて、なるほどと思った。


今までは、天下り(官の場合)や子会社へ転出(民の場合)する人は、何度も高額の退職金を貰い、名誉職的な仕事で何千万円もの年収をもらうなど、“ずるい”という印象をあった。

でも、ちがうかも、と思った。


彼らは仮にも一度は大企業でトップを目指した人達です。彼等が本当に欲しいと思っているものが「処遇だけ」の仕事のはずがない。

全員とはいわないが、「処遇なんてどうでもいいから、力が発揮できる機会が欲しい」と思っている人は少なくないだろう。

しかも彼等にはそれなりの貯金も手厚い企業年金もある。心から賛同できる機会であれば、給与が低くても頑張るぜ、という人もいそうだ。

けれど日本にはこういう人の「転職市場」が存在しない。だから仕方なくアレンジされた“処遇だけの仕事”に流れていくしかないのかもしれない。


だとしたら・・・人材マッチング業的な業界で、こういうマーケットに目をつけるのもいーんじゃないの?と思った。

日本の転職斡旋業界は若手の転職支援には熱心だけど、こういう「経営職レース参加経験人材層」に注目するのもいいんじゃないかな、と思った。

こういう人達ってホント豊かな経験をもっている。複数の海外経験があったり、合併や買収後の組織統合を経験していたり、法律や規制や上場や免許関係に精通していたり、銀行と何度もギリギリの融資交渉をしてきたり。

そういう人を「処遇だけ」のポジションに押し込めるなんて「人材しか資源がない」と豪語する日本としては、ちょっともったいない。

そもそもこの層に限らず、「日本が、有能な人材に機会を与えずに放置する」というのは、「サウジアラビアが原油を沙漠に垂れ流す」のと同じ。 国の唯一の資産を無駄にしてどーするの?

人材の最適配分を促すような仕事、仕組みってのが必要だよね。ほんとに。


そんじゃーね。