不特定多数の「買い手」と「売り手」をマッチングさせ結びつける場所は、市場と呼ばれます。読み方は“シジョウ”、もしくは“イチバ”ですね。
その歴史は古く、多数の露天商と多数のお客さんが“イチバ”で売ったり買ったりする様子は、どの国の歴史ドラマを見てもよくでてくるし、その風景も非常に似通っています。
現在の日本人には、「売り物には定価が存在する」と考えている人も多そうですが、それら伝統的な“市場の風景”を見ればよくわかるように、定価販売は歴史的に見ても、また国際的に見ても、主要な売り方ではありません。
日本で定価販売が始まったのは、明治半ば以降にデパートができてからでしょうか。だとすると、たかだか100年くらいの歴史です。
それ以前は、モノの値段は需給に合わせて日々変動しており、さらに、店と客が個別に価格交渉をして決まっていたわけです。
今だって、日本中の売買のすべてが定価で行われているわけではありません。
他店の値段に合わせて(それを提示してきた客にのみ)値引きをする家電店でも、ネット上のオークションでも、また、野菜や魚など生鮮食品の卸売市場でも、モノの値段は買い手&売り手のパワーバランス(需給バランスを含む)に応じて決まっています。
労働力だって、最低賃金だけは決まっているけれど、あとは需給に応じて価格が変わります。
最近はバイトが足りないので、都市部では時給が上がり気味だし、ハイエンドな転職市場でも、超優秀な人が応募してきて「ぜひわが社に!」と言ったとたんに、給与交渉を持ち出された経験のある会社も多いでしょう。エンジニアの給与だって実力や需給に応じて大きく変動しているはずです。
アパートだって、入居を迷っていたら、不動産業者からそれとなく(家賃の)値引きをほのめかされることがありますよね。最後一戸だけ残った分譲マンションの部屋でも同じことが起こってます。
ネットバンクでは、顧客別に異なる金利を提示している会社もあるだろうし、消費者金融だって、借り手の状況に応じて、金利を決めてるでしょう。
進学塾の多くは、成績が優秀な生徒を無料で入塾させてるし、大学でさえ成績優秀者には入学金や授業料を値引きするところが増えてます。(返還義務のない奨学金って名前ですけど)
このように、今の日本でさえ、モノの値段は需要と供給のバランスによって日々変化しており、需要者と供給者のパワーバランスに応じて、一物多価の世界になってるわけです。
さらに、海外では日本以上に「定価なんてあってないようなもん」という市場が多いわけで、「モノには定価があるのがあたりまえ」とか、「いつ、誰が買っても同じ値段で手に入るのが当然」というのは、歴史的にも国際的にも特殊な世界です。
むしろ「情報量や交渉力があれば、より安く買える」とか、「買い方や買うタイミングによって、安く買えたり、高くなったりする」ほうが、ごくごく普通なんだよね。
そしてちきりんは、この傾向がこれから益々顕著になるだろうと感じています。20年ほど前まで、家電には「希望小売価格」とかいう意味不明な価格がありましたが、今やすっかり聞くこともなくなってしまいました。
現在は再販制度があり、書籍や新聞は定価販売されていますが、10年、20年後にこういった定価が残っていると思っている人は少ないでしょう。
コンビニだって今はフランチャイズ契約により、賞味期限が近くなったお弁当など日販品の値引きは許されていませんが、これも時間の問題では?
新人の医者でも、神の手をもつベテラン医者でも、同じ手術なら同じ値段って、なんか変じゃない? だからコネとか“私的な謝礼”が必要になるのでは? こんなのいつまでも続くと思う?
このように定価で売られるものが少なくなり、「価格は需給で決まる」傾向が強くなることを含め、私は「世の中は、これからどんどん市場化する」と考えています。
社会の市場化が進展したら、私たちにはどんなスキルが求められるでしょう?
ひとつは、安く買うスキルですね。これは大阪のおばちゃんのスキルです。
さっき、梅田のデパ地下でお弁当を買ったんですけど、タイムセールで100円引きになっている弁当の隣に、まだ値引きされていない弁当があったんです。
あたしが「どっちにしようかなー。100円引きってお得だなー。でも、値引きされてない方のお弁当のが美味しそうだなー」などと考えていたところ、
隣にいたお客さん(もちろん、おばちゃんです)がすかさず、「こっちも100円引いてくれる?」って声をかけ、お店の人が「ええですよー」って応じてました。
デパ地下だよ!?
まあでも、このスキルはそんなに難しくありません。発展途上国か大阪に半年も住めば、身につけることできます。
より難しく、さらに大事なのは、「いかに高く売るか」というスキルを身につけることです。かっこいい言葉でいえば「プライシング能力」ですね。
このスキルが必要になるのは自営業の人だけではありません。
自分をいかに高く売るか、自分の持っている能力をいかに高く売るか、そのためには、どんな場所で、どんなパッケージングで、どんなタイミングで、売るべきなのか。(あたりまえですが、プライシングが高すぎて売れなければ元も子もありません)
そういうスキルがある人とない人では、手に入るお金の量はもちろん、得られる“機会”の量や質が、これからは大きく変わっていくことでしょう。
近著『未来の働き方を考えよう』の中に、「これからは市場で稼ぐ力をつけることが大事!」と書きました。プライシング能力は、市場から稼ぐための中心スキルです。しかもコレ、学校では教えてくれないから、家庭か仕事から学ぶしかないんです。
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そんじゃーね!
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