純化政策か、大胆な少子化対策か?

すごいおもしろいことが起こったので記録として。

先日、次のようなツイートをしたら、相当数のRTといいねが付きました。


NHKの夜の9時のニュースを見て呟いたものですが、ハンガリーの大胆な政策には驚いた方が多かったようです。

実際これは考えれば考えるほどよくできた政策です。

これがもし「世帯全体の所得税を軽減する」になってると、「女性は子供を産み、男性が稼げばよい」となり、性別による役割分担を固定化させてしまいます。

その上お金持ちの男性には「税負担が重いから、節税のため子供をたくさん産んでくれる女性と結婚(再婚)でもするか」という歪なインセンティブが生まれます。

ところが女性の所得税だけを免除すると、子供が増えるだけでなく女性の社会進出も促されるし、男性の育児参加も促進されます。

しかも子供を産むタイミングが早ければ早いほど得するので、不妊に悩む人も減らせる。

さらには、自然に産みたい人も多そうな 3人以上での優遇だと税収が減りすぎてしまうけど、ちょっと頑張らないと実現できない「子供 4人」を条件にすれば「全員が産む」ってこともない。

まったくもってよく考えられた政策です。



なのですが実はこのニュース、元ネタであるNHKの取り上げ方はまったく違っていました。

全録画機やオンデマンド視聴なら今でも確認できますが、NHKのニュースは、

・移民を受け入れようというEUの方針に反し、ハンガリーは移民を排斥


・かわりに(人口減少対策として)ハンガリー人が子供を産むことへの大胆なインセンティブを次々と発表


・これは、ハンガリー人の純化政策ともいえ、多様性を是とするEUの価値観に反する危険な思想である

という趣旨(トーン)でした。

つまり、まったくポジティブなニュースではなかったのです。


NHKのニュースだけを見た人にとっての「ハンガリーのオルバン首相のイメージ」は、「排外的で強権的な国粋主義者」でしょう。

でも私のツイートだけを見た人にとってのオルバン首相は、「大胆な少子化対策をとった優れたリーダー」です。

同じ情報でも、どう加工するかでまったく異なるストーリーになること、まったく異なる意見を醸成してしまうという現象は、非常に興味深いものでした。


★★★

次に、私が今回、NHKのニュースを見て「最初に」感じたことを書いておきましょう。それは下記のような感想でした。

・移民流入を拒否し、自国民の少子化対策をとるハンガリーの首相を、NHKは「EUの(正しい)価値観に反対する国粋主義的なリーダー」だと断じている。


・でも日本だって本当は、移民なんて入れず、日本人の子供を増やしたいと思っていたんだよね? 単にそれに失敗したから、今年から(事実上の)移民を入れているだけだよね?


・他国がやったら「純化政策」と呼び、自分の国がやろうとしていたときは、そう批判しないなんて、NHKは二枚舌では?

これが、私がNHKのニュース9を見て「自分のアタマで考えたコト」です。


そして次に「だったら、この同じ情報を「ポジティブ」に報じることもできるのでは?」と考え、少子化対策の部分だけをツイートしたのです。

結果は最初に述べたとおり。一部反対意見もありましたが、大半の人はそれを「大胆で効果的な少子化対策だ」と感じました。

反対意見の大半も「女性の負担が重い」とか「産めない理由がある人への不公平感」であって、純化政策的だという批判は皆無でした。


そもそも以前から私は、「世界の人口は増えているんだから、自国が少子化だからといって対策をとらなくても、海外から人を入れれば人口減少は止められる」と書いています。

chikirin.hatenablog.com


でも日本は国を挙げて、「日本人の子供を増やす」という政策にやっきになってきたんです。

それを純化政策と呼ばず、同じコトを目指すハンガリーをなじるのは、身勝手な理屈ですよね。

日本がそれをやめたのは、「純化政策はよくない!」と思ったからではなく、「日本人女性にこれ以上、子供を産ませるのは無理」と諦めたからに過ぎません。

そんな我が身を振り返ることなくハンガリーの政策を批判するだけでは、NHKの看板が泣くでしょう。

大勢のスタッフを抱える報道機関なら、「今のハンガリーと、移民受入を決める前の日本の違いは何なのか?」にこそフォーカスし、

純化政策と大胆な少子化対策の違いを明らかにしてほしかった。

なぜならそれこそが、「考える」ということだから。


★★★


最後に。
今回の現象、いろいろおもしろいのですが、なにより「自分のアタマで考える」訓練として素晴らしい機会になると思います。

自分の国が人口減少に悩むとき、1より2を優先して行う国があったら、みなさんはそれを、「多様性を拒否し、純化政策を求める危険な国」だと思うでしょうか?

1.移民を受け入れる
2.自国民がたくさん子供を産むよう、強力なインセンティブを与える

それとも、「自国民の少子化対策を優先するのは当然。それに成功した国のリーダーはすばらしい。日本は中途半端な政策で失敗したけど」と思うでしょうか?

ぜひ「自分のアタマで考えた結論」=「自分の意見」を明確にしてみてください。


それぞれが、NHKにも“ちきりん”にも洗脳されず、「自分のアタマで」考え、自分の意見を持つこと。それこそが、重要なのであり、それこそが私が(ブログやツイッターを通じて)伝えたいことに他なりません。

私のツイートの元々の趣旨は、そこにあったんです。


下記は、オリジナルのNHKニュースも確認してくださった方のツイートです。こうやって実際にチェックしてみるのも、とっても大事なことだと思います。


自分のアタマで考えるって、ほんとに楽しい!


そんじゃーね


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