すごいおもしろいことが起こったので記録として。
先日、次のようなツイートをしたら、相当数のRTといいねが付きました。
ハンガリーのオルバン首相が「移民ではなく、出生率を上げて人口減少を防ぐ」ためにとった子育て支援策のひとつが「子供を4人産んだ女性は、一生、所得税をゼロにする!」
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) November 12, 2019
すごいと思うけど、実際これくらい思い切った政策必要かもね、本気で出生率を上げたいなら。
NHKの夜の9時のニュースを見て呟いたものですが、ハンガリーの大胆な政策には驚いた方が多かったようです。
実際これは考えれば考えるほどよくできた政策です。
これがもし「世帯全体の所得税を軽減する」になってると、「女性は子供を産み、男性が稼げばよい」となり、性別による役割分担を固定化させてしまいます。
その上お金持ちの男性には「税負担が重いから、節税のため子供をたくさん産んでくれる女性と結婚(再婚)でもするか」という歪なインセンティブが生まれます。
ところが女性の所得税だけを免除すると、子供が増えるだけでなく女性の社会進出も促されるし、男性の育児参加も促進されます。
しかも子供を産むタイミングが早ければ早いほど得するので、不妊に悩む人も減らせる。
さらには、自然に産みたい人も多そうな 3人以上での優遇だと税収が減りすぎてしまうけど、ちょっと頑張らないと実現できない「子供 4人」を条件にすれば「全員が産む」ってこともない。
まったくもってよく考えられた政策です。
この政策はホントによく考えられてて、これにより、
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) November 12, 2019
・自分は稼げる!と思う女性ほど「早めに4人生み、そのあとガンガン稼ごう!」と考えるし、男性側は「自分が育児休暇をとり、女性側に働き続けてもらったほうが税負担が少ない!」と考えるので、男性の子育て意欲が高まる。すごいなオルバン首相
それ以外にも、子供が多い家庭には家を建てるための数百万円の補助金と低利融資も実施。子供が3人いる家庭では、立派な一戸建てを立てる費用の3分の2がそれらでまかなえるとか。
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) November 12, 2019
日本もこれくらいしてたら、子供を産む人も増えたのでは?
なのですが実はこのニュース、元ネタであるNHKの取り上げ方はまったく違っていました。
全録画機やオンデマンド視聴なら今でも確認できますが、NHKのニュースは、
・移民を受け入れようというEUの方針に反し、ハンガリーは移民を排斥
・かわりに(人口減少対策として)ハンガリー人が子供を産むことへの大胆なインセンティブを次々と発表
・これは、ハンガリー人の純化政策ともいえ、多様性を是とするEUの価値観に反する危険な思想である
という趣旨(トーン)でした。
つまり、まったくポジティブなニュースではなかったのです。
NHKのニュースだけを見た人にとっての「ハンガリーのオルバン首相のイメージ」は、「排外的で強権的な国粋主義者」でしょう。
でも私のツイートだけを見た人にとってのオルバン首相は、「大胆な少子化対策をとった優れたリーダー」です。
同じ情報でも、どう加工するかでまったく異なるストーリーになること、まったく異なる意見を醸成してしまうという現象は、非常に興味深いものでした。
★★★
次に、私が今回、NHKのニュースを見て「最初に」感じたことを書いておきましょう。それは下記のような感想でした。
・移民流入を拒否し、自国民の少子化対策をとるハンガリーの首相を、NHKは「EUの(正しい)価値観に反対する国粋主義的なリーダー」だと断じている。
・でも日本だって本当は、移民なんて入れず、日本人の子供を増やしたいと思っていたんだよね? 単にそれに失敗したから、今年から(事実上の)移民を入れているだけだよね?
・他国がやったら「純化政策」と呼び、自分の国がやろうとしていたときは、そう批判しないなんて、NHKは二枚舌では?
これが、私がNHKのニュース9を見て「自分のアタマで考えたコト」です。
そして次に「だったら、この同じ情報を「ポジティブ」に報じることもできるのでは?」と考え、少子化対策の部分だけをツイートしたのです。
結果は最初に述べたとおり。一部反対意見もありましたが、大半の人はそれを「大胆で効果的な少子化対策だ」と感じました。
反対意見の大半も「女性の負担が重い」とか「産めない理由がある人への不公平感」であって、純化政策的だという批判は皆無でした。
そもそも以前から私は、「世界の人口は増えているんだから、自国が少子化だからといって対策をとらなくても、海外から人を入れれば人口減少は止められる」と書いています。
でも日本は国を挙げて、「日本人の子供を増やす」という政策にやっきになってきたんです。
それを純化政策と呼ばず、同じコトを目指すハンガリーをなじるのは、身勝手な理屈ですよね。
日本がそれをやめたのは、「純化政策はよくない!」と思ったからではなく、「日本人女性にこれ以上、子供を産ませるのは無理」と諦めたからに過ぎません。
そんな我が身を振り返ることなくハンガリーの政策を批判するだけでは、NHKの看板が泣くでしょう。
大勢のスタッフを抱える報道機関なら、「今のハンガリーと、移民受入を決める前の日本の違いは何なのか?」にこそフォーカスし、
純化政策と大胆な少子化対策の違いを明らかにしてほしかった。
なぜならそれこそが、「考える」ということだから。
★★★
最後に。
今回の現象、いろいろおもしろいのですが、なにより「自分のアタマで考える」訓練として素晴らしい機会になると思います。
自分の国が人口減少に悩むとき、1より2を優先して行う国があったら、みなさんはそれを、「多様性を拒否し、純化政策を求める危険な国」だと思うでしょうか?
1.移民を受け入れる
2.自国民がたくさん子供を産むよう、強力なインセンティブを与える
それとも、「自国民の少子化対策を優先するのは当然。それに成功した国のリーダーはすばらしい。日本は中途半端な政策で失敗したけど」と思うでしょうか?
ぜひ「自分のアタマで考えた結論」=「自分の意見」を明確にしてみてください。
それぞれが、NHKにも“ちきりん”にも洗脳されず、「自分のアタマで」考え、自分の意見を持つこと。それこそが、重要なのであり、それこそが私が(ブログやツイッターを通じて)伝えたいことに他なりません。
私のツイートの元々の趣旨は、そこにあったんです。
下記は、オリジナルのNHKニュースも確認してくださった方のツイートです。こうやって実際にチェックしてみるのも、とっても大事なことだと思います。
NHKオンデマンドで、昨日11/12のNW9を見ました。
— ますいか👓まるか🏳️🌈11/22-24岡山市 (@Masuika_Maruka) November 13, 2019
確かに、NHKとちきりんさん @InsideCHIKIRIN とで切り方が全然違って面白い🤔
NHKは「民族純化政策よくない🙅♀️」とオルバン首相の政策を批判していますが、
ちきりんさんは「経済力がある女性が子供を作るのは合理的」と評価をしています。 https://t.co/p7pai4DPp9 pic.twitter.com/C5XzWltNSf
自分のアタマで考えるって、ほんとに楽しい!
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