処刑を免れた元首 その1

先日、「マリーアントワネットは本当に処罰されるべきだったのか?」というテーマでブログを書きました。今回はその続きです。chikirin.hatenablog.com


フランス革命のときも、ロシア革命のときも、王族はみな処刑(死刑に)されてしまいました。

そんな昔じゃなくても、アラブの春の国など含め、絶対権力を失ったとたんに処刑されてしまう国家元首はたくさんいます。

北朝鮮や中国のトップが体制崩壊を極端に恐れるのも、それがすなわち「自分が処刑されること」と同義だからでしょう。

こうしたことから「革命時にそれまで絶対的な権限を振るった国家元首は、その体制が瓦解したとき、死刑になるのは当然である」と言う人もいます。

が、日本人なら「かならずしも当たり前じゃなかった」ことを知ってますよね。

まさかそれを知らないほど、自国の歴史に無知な人はいないはず。

★★★

と、ここまで書けばわかるでしょう。

それまで「神」として日本のトップに君臨していた日本の天皇は、敗戦後も処刑されていません。

「マリーアントワネットなんて死刑が当然だ!」「それが革命なのだ!」と言っている人は、昭和天皇も死刑になるべきだったと考えているのかもしれません。

けれど昭和天皇には「別の選択肢」が与えられました。

「神ではない」と神話的崇拝を否定し、国民に寄り添い、敗戦後の国の混乱を収めることに生涯を捧げるという選択肢です。

もちろん、天皇の戦争責任を追及し、処刑すべきと考えた人も当時はたくさんいました。

東京裁判の最大の(隠れた)争点は、天皇の戦争責任だったはずです。

しかし、国際社会の政治判断の中で(冷戦のなかで、というほうが正確か)、昭和天皇は反省と償いの後半生をおくることになりました。

★★★

この「権力を失えば、絶対君主(元首)は処刑される」という一般通念は、日本の運命にも大きな影響を与えています。

第二次大戦の末期、もう負けると皆わかっていたのに、日本はなかなか降伏できませんでした。

誰も「最高意思決定機関である御前会議」に「降伏しましょう!」とは提案できなかったからです。


なぜかって?

無条件降伏なんてしたら天皇陛下は処刑されると、誰もが信じていたからです。

当時は(今も?)体制が変われば国家元首が処刑されるのは「あたりまえ」と考える人が大半です。

実際、同盟国だったイタリアのムッソリーニは処刑、ドイツのヒトラーは自殺に追い込まれた。

そんな時代に、御前会議で「もう無理だから降伏しましょう!」と言える人なんていますか?

それはすなわち天皇にたいして「降伏しましょう。陛下は処刑されると思いますけどしゃーないでしょ」と提案するのと同じです。


そんなこと・・・言えるはずがありません。

だから日本は降伏の判断があんなに遅れたんです。

もし「降伏しても天皇は処刑されない」と当時の幹部たちが思えていれば、降伏の判断は実際より半年早くでき、沖縄の地上戦や原爆投下さえ、起こらなかったかもしれないのです。


んが、
あの頃の軍幹部で、降伏しても昭和天皇が処罰されることなく、天寿を全うできるなどと予測できていた人は皆無でしょう。

実際、日本は「降伏するけど、国体維持だけは認めてくれ」と交渉しようとしていました。

国体維持とは、天皇だけは今のままに、ということです。

今の北朝鮮と同じ主張ですよね。

てかそもそも陛下ご自身だって、ご覚悟をされていたことでしょう。

★★★

でも連合軍は(いろんな政治的な思惑もあり)天皇制を維持しました。

昭和天皇が処刑されることはなかったのです。

このケースでは、処罰を免れた理由は「更生させるため」ではなく「政治的に利用するため」でした。

ですが、ここでは前回のエントリで問うた「マリーアントワネットは処刑されるべきだったのか、それとも更生の機会を与えられるべきだったか」という課題と同様に考えてみてください。

あなたが連合国の(もしくは東京裁判の)裁判官だったら、昭和天皇を処刑したでしょうか?

そして、次の質問についても考えてください。

上記のあなたの回答は、マリーアントワネットのときと同じですか? 

それとも異なりますか?

もし答が異なるなら、「なぜ自分はマリーアントワネットと昭和天皇で、異なる答を出したのだろう?」と考えてみましょう。

ルイ16世やマリーアントワネットにだって、反省と償いの人生を送りつつ、フランスの国家建設に貢献できた可能性はあるんじゃないでしょうか?


今日の「考えるための課題」も先日のブログで書いた課題と同じです。

正しい答など存在しません。

だからこそ「自分のアタマで考える」ことが重要なんです。

そしてなにより、

答の存在しない問題についてしっかり自分のアタマで考えるって、めっちゃ楽しいでしょ?

いえもちろん、このブログの読者の中にも「自分で考えるなんて、つまらんし興味ない。さっさと答を教えろ!」って人もいるのかもしれないけど、

もしあなたが「考えるコトが好き!」だと思うなら、

ぜひ考えてみてください。


 そんじゃーね!