若貴問題は、おにいちゃんが相続放棄をして新展開に入るようです。
今回は、お兄ちゃんの若乃花は相撲界をやめている。それなのに財産を半分もらう権利がある。
でもそれじゃあ、貴乃花は部屋を存続させられなくなるかも、という話が出ていました。
たしかに若乃花が相撲界をやめているとか、そもそも昔は相撲取りであったとかいうことは、法律上の相続には全く関係がありません。
たとえばこの兄弟に妹がいれば、彼女も三分の一をもらう権利があります。
若乃花が最初からサラリーマンになっていても同じです。財産は奥さんと子どもでまず分けるわけですが、奥さんがいなければ、子どもの間では均等に分ける、というのが相続の基本的なルールです。
ということは、相撲取りは、もし部屋を子どもに引き継ぎたいなら、子どもをあまりたくさん生んではいけません。
10人も子どもがいたら、部屋を継いだ子ども以外の9名が全員、相続放棄をしてくれる可能性はとても低くなるでしょう。
ちゃんと遺言書を作っておけば大丈夫と言われる方もあるかもしれません。でも遺留分もあるし、しかも人はいつ死ぬかわかりません。交通事故であれば、遺言状など作っていない時期に命がなくなるかもしれません。
また、相撲部屋がきちんとした法人化をすれば相続は少し楽になるかもしれませんが、いずれにしても争いが起こる時は起こるでしょう。
まあとにかく、いわゆる跡継ぎに全部を譲るということができない。それが現在の民法です。
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昔は違いました。いわゆる家督相続です。長男がすべてを引き継ぐ。
「たわけ者!」という言葉をご存じでしょうか。
これは、豊臣秀吉が太閤検地の後に発令した田畑分地制限令(名称不確か)から来ている言葉です。
子どもが二人いる百姓が引退するとき、自分の田圃を複数の子どもに分けて相続することを禁止したものです。
ひとりだけが全部相続しろと。なぜなら、複数の子どもに田畑を分けるということが数代続いたら、田畑はどんどん小さくなってしまう。
それは農業の生産性を著しく下げることになる。んで、「田圃を分けるなんて、大馬鹿者のやることだ」といいだした。それが「たわけ者!」=馬鹿者!です。
相続税の手続きをすると、すごいいろんな書類を作成するわけですが、その多くの書類に「農家の特例」の欄があります。
農家が所有する田畑や高額な農業機具を相続する際の相続税を緩和するために、山ほど特例措置があるのです。
そうしないと、農家は農家を続けられなくなる。代が替わるたびに農機具や田圃を売って納税に当てなくてはなりません。それを避けるために、そういう税の特例があります。
なんとなく、豊臣秀吉の分地制限令に通じるものを感じます。すなわち、「農業」という産業、もしくは、伝統?を守るために、特別な法律(この場合、税法)がある。
だったら・・・・と思いませんか?
相撲は日本を代表する伝統芸能です。その継承のために必要な法律を整備(実際には特例措置を作るなど)することは、あってもいいんじゃないかと。
角界には、不透明なお金の出入りが多いと言われます。
タニマチと言われる人たちから横綱や相撲部屋、親方に流れるお金も、そのひとつです。
よくあるのは、タニマチが、支援する親方に多額のお金を渡す。これを申告しないと脱税になります。二子山親方も一度、これを収入とみなされ追徴課税されてました。
でもね、これって本当は「芸術に対する寄付」ともいえます。欧米では、美術館やオペラの楽団などに寄付をすると無税になる制度があります。寄付をした方の税額軽減もあります。
二子山親方が親方株を買うための資金をタニマチからもらう。これを個人の収入として捉えるのか、それとも「相撲」という伝統芸能への篤志家の寄付とみるか、視点は大きく異なります。
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おにいちゃんが相続放棄しても、貴乃花は相当の相続税を支払わされます。親方株も数億円とみなされて課税される可能性が高いです。
相撲を国技、伝統芸能として保護する、という視点はそこにはありません。農家は数が多くてみんな選挙にいくけど、角界の人数なんて知れている。だからこういうことが放置されてます。
親方株は売買されちゃうから課税されるわけですが、実は能や歌舞伎のお面だって、売ったらすごい価格がつくでしょう。
中には国宝級のものもあるでしょう。これだって、値段がついたら代替わりの時に課税され、他のお面を売って税金を払う、みたいなことになりかねません。本当にそれでいいんだろうか?
税制には思想が必要だと思うんです。相続税のために農業が続けられなくなる、相撲の部屋が潰れる、潰れないにしても十分な稽古ができる環境を維持できなくなる、伝統ある芸術の小道具が散逸する。そういうのホント馬鹿げてますよね。
そんなこと言っても国が大変だから、税金はとるべき?
西武王国を築いた初代堤康次郎は、全然相続税を払っていませんでした。なんだか変だと思います。
ではまた明日