世界中がワールドカップで盛り上がってますね。
単一スポーツの大会なのにオリンピックに匹敵、もしくは地域によってはオリンピックを凌駕するほどの人気を誇るサッカーのワールドカップ大会。なぜこんなに人気があるのでしょう?
まずはサッカーが人気がある理由を考えてみましょう。
(1)貧しくてもできる
サッカーはボールひとつあれば、グランドはボコボコの草むらでもプレイできます。野球やアメフトはボール以外に道具や装備が必要だし、テニスならコートの整地が必要です。プールが必要な水泳や広大な敷地が必要なゴルフも、貧しい国で多くの人が楽しむことはできません。
プレイするのにお金がかからないスポーツは世界での競技人口が圧倒的に多くなります。お金がかかるスポーツを楽しめるのは世界で10億人ですが、貧しくてもできるスポーツなら世界60億人が参加できます。また、「貧しくてもできる」=「貧しくても勝てる」であり、南米やアフリカの国から続々と“スタープレーヤー”が生まれることも、世界中の人達を熱狂させるひとつの理由でしょう。
(2)ルールがシンプル
ルールがシンプルで審判がいなくてもプレイできることも、競技人口の裾野拡大には重要です。野球はたとえ草野球のレベルでも、ストライクとボールをきちんと判定できる人がいないと試合になりません。ラグビーには「前にパスすることは禁止」というルールがありますが、これを審判なしで判定するのは難しいでしょう。サッカーは「手を使わない」くらいしか重要なルールはなく、草サッカーなら(オフサイドを適用しなくてもいいので)審判なしでも十分、試合がなりたちます。
また、ルールがわかりやすいと誰でもすぐに参加できるし、初めて見る人もすぐに理解して応援できます。加えてサッカーはプレーヤーのポジションも固定的でないため、必ずしも11人揃わなくても何人からでも楽しめます。
(3)常に“動”で目が離せない
これは観戦者側からの視点ですが、野球やテニスなど多くのスポーツには、「静と動」があります。野球場も「巨大なビアホール」としても機能するほど、試合途中に「何の緊張感もない時間」が長く含まれます。複数のランナーが塁にでて初めて、「おっ」と思う程度ですよね。テニスでも緊張するのはサービス側がゲームを落としそうになった時だけで、サービス側は責める、レシーブ側は守る、という動と静が最初から決められています。
この点サッカーは、ほとんど“静モード”がありません。静モードになど入ったら、すぐ相手に得点されてしまいます。試合中ずっと“動”であることを求められるスポーツは、観客が「目が離せない」スポーツとなります。サッカーの場合、テレビを見ている時も「自分がトイレに行った間にゴールされたらどうしよう!」と思いますよね。野球やテニスなら、トイレにいくチャンスはいくらでも見つけられます。サッカーは常に緊張感を求められる、ドキドキワクワクできるスポーツなのです。
(4)欧州が植民地に普及させた歴史的背景
欧州が自分達の植民地に持ち込んだため世界に広まった、という歴史的な背景もあるでしょう。アメリカとの歴史的つながりが濃い日本や韓国で野球が人気であることも同じですが、欧州は一時期世界の大半を制覇していましたから、サッカーが野球よりも広く普及したのだと思います。
(5)アメリカが弱い(?)
「アメリカが弱いスポーツ」だから(アメリカ以外の)世界中の人が好きなんじゃないかとも感じます。たとえば、欧州の人は、スポーツとしての魅力はさておき、アメリカンフットボールや野球を今からもり立てる気にはならないでしょう。
多くの人はスポーツに「最下層からのし上がるチャンピオンやスター」を求めており、現実の世界で軍事的にも経済的にも圧倒的に巨大な力をもつアメリカが常勝するスポーツ大会より、誰が勝つかわからない大会を好む人の方がよほど多いのではないかと思います。
★★★
次にW杯がおもしろい理由を考えてみましょう。
(1)国別対抗でナショナリズムを刺激
まずは露骨にナショナリズムに訴えるのが、人気の源ですよね。オリンピックだとそれぞれの種目で金メダルを分け合えますが、単一種目だと優勝は一カ国だけです。これは燃えるでしょう。ナショナリズムをスポーツに持ち込むのは嫌いという人もいるけれど、貧しい国にとっては大きな意味があります。普段はお金のために欧州のクラブチームでプレーするスター選手が、W杯では自国のユニフォームを着て戦ってくれるのは、国としての結束力を高め、一勝するごとに自信にもつながるでしょう。
(2)リーグ戦とトーナメント方式の組み合わせが絶妙
野球みたいに「年間140試合」では興奮が持続しないし、オリンピックの大半の競技のように“一回勝負”では運の要素が大きすぎます。初回のワールドベースボールクラッシックでは、韓国は何度も日本に勝ったのに優勝できず、日本が優勝しました。こういう大会で「優勝するのは、本当に一番強いチームである」と皆が納得できる試合方式を定めるのは簡単ではありません。
このサッカーW杯はその辺のバランスが絶妙だと思います。たとえば一次リーグにおいて、初戦で勝つか、引き分けるか、負けるか、というのは、ものすごく大きなことであると同時に、それだけでは何も決まりません。勝っても全く安心できないし、負けてもまだまだなんとかなると思える。
各グループには複数の競合国が振り分けられているから、どのグループでも「絶対楽勝」とは言えないし、誰にもチャンスがある。そして最後はトーナメント方式で一気に「この試合しかない!」という緊張状態に持ち込みます。「一次リーグは運だけでは勝てない」が、「最後は運も実力だ!」というバランスがすばらしいと思います。
(3)4年に1回しか行われない
4年に1回だと優勝チームが毎回変ります。大会が毎年であれば、強い選手が数人揃った国が5連勝でも6連勝でもできるでしょう。しかし4年に一度だとどんな天才プレーヤーも5大会連続で(=20年間)トッププレーヤーの座を維持するのは不可能です。
次は4年後なので、どの大会にも「今回の大会が最後のチャンス」と思われる年齢の選手がいて、感動の「人間ドラマ」が生まれます。前回負けた国では応援する方も選手達も「4年間も雪辱を果たすために頑張ってきたのだ」という気持ちになっていますから、一層熱が入るのでしょう。
(4)いろんな人が儲かる
オリンピック同様、「毎回違う場所でやる」のも人気がある理由でしょう。これにより「開催場所を決める」というプロセスまで“イベント化”されます。開催都市では誘致活動の他、開催が決まれば都市整備まで行い、巨額のお金が動きます。
最も儲かるのは旅行業界で、毎回違う場所で開催すれば、観光を兼ねて毎回来てくれる人もでてきます。世界のメディア、スポーツ新聞やニュースも、試合中継に加えて開催国の文化、土地柄の紹介など周辺報道ネタ(コンテンツ)が豊富に手に入ります。さらに国内の各都市に散らばるスタジアムの近隣では、レストランやバーはもちろん、様々なお店が潤うでしょう。
儲かる人が多いかどうかは、こういったイベントの盛り上がりに大きく影響します。なぜなら自分が儲かると思えば、彼等は一生懸命そのイベントの宣伝をしてくれるからです。協会とスポンサー企業だけでなく、メディア、旅行業界、地元の多くの店、都市整備に関わる企業などがみんなで騒いでいるうちに、どんどん人気が盛り上がってくるのでしょう。
★★★
ところで前回のW杯の期間中は、ちきりんは中国の田舎にいました。なんで覚えているかというと、テレビで試合を見ていても新聞を読んでも「すべての国の名前が漢字で表記」されており、すごいわかりにくかった記憶があるからです。だいたいは音読み表記でわかるんですけど、「うーん、わかんないよ」って国もたくさんありました。漢字なのに案外わからないものです。というわけで、今回はじっくり観戦したいと思います。表記もアナウンスも日本語だしね。
ではでは〜