誰が言ったか、何を言ったか

世の中は、「誰が言ったか」って方が「何を言ったか」より、だいたいにおいて重要だね。

唐突になんだって?

たとえば、「増税か」「減税か」という中身が大事な気がするでしょう?議論においては。一瞬ね。「増か減かどっちなのか、ってのが問題なのだ!」と。

でもね、それはたいして重要でなかったりする。小泉さんが言うか、ちきりんが言うか、の方が実はよっぽど重要だ。



ちきりんが「増税だ!」と言おうと、「減税だ!」と言おうと、そしてそれをテレビや新聞が報道しようと、誰もなんも気にしません。が、小泉さんが言えば、すごいことになるだろう。それが増税であっても減税であっても、大騒ぎになる。

つまり、増税でも減税でも、ニュースバリューは変わらんが、小泉さんかちきりんか、というのは大問題だ。

と、何を当たり前のことを言っているのかって?


あの北海道のとんでもミート会社の田中社長の発言ですよ。あれ聞いて、ああ、「何」より「誰」なんだよな、と思った。


彼の発言の趣旨はふたつ。
「皆やっている=ミンチ会社が違うものを混ぜているのはよくある話。」
「安いモノだけを求める消費者にも問題がある。」

これが「何を言ったか」です。発言の内容です。WHATです。


これさあ、消費者啓蒙団体とか、家庭科の先生とか、親とかが言えば、「なるほど」って感じじゃないですかね?

居酒屋で隣のテーブルのおじさんが、「どこのミンチだっていろいろ混ざってるに決まってるよな〜。安物に飛びつく消費者がアホなんだよ〜」とか言ってても、そんなに腹立たしくないでしょ?同じ内容でも。


実際、ちきりんは小さいころスーパーにお買い物にいくと、母親にいろいろ教えてもらった。例えばお肉やお魚はこうやって指で押さえてみると。すると、その戻り方の弾性の強さによって新鮮さがわかるんだ、とか。

キュウリならあのつぶつぶが痛いくらいのものが新鮮なのだ、ネギならパリパリ感、みずみずしさをみろとか、寒天状の食べ物はすごく鮮度が大事だから製造日を必ず見ろとか。

で、よく言われていたよ。「ハムやソーセージ、それにコロッケとか、材料の形の見えないモノは安いモノを買うな」って。


つまりさ、「そういうものは何が混ざってるかわからない。業者側がいろいろ違うものを混ぜるのはよくある話。だから消費者としてできることはあんまり安売りのものを買わないことよ。」と教えられてた。

古い肉を買わないですむように工夫するのと同様に、混ざりモノの多い変なモノを買わないように気を付けろ、と。


言ってることは、うちの母親も田中社長も同じだよ。


でも、問題は「誰が言ったか」だ。

田中社長は、それを言うべき人ではなかった、ということだろう。

★★★

おもろいのは、マスコミの報道だ。彼らは「田中社長がこういうこというのは変だ。」という報道はしない。「誰がこれを言ったか、という点が問題なのだ。」という意識はないよね。あくまで「彼が言った“中身”がおかしい」と報道している。

「とんでもないことを言っている」と、ひどいことだ!、と責めている。


マスコミってたしかにそういう業界だよね。関西テレビのあるある大辞典のやらせ問題。あれもかなりとんでもなかったでしょ。納豆なんて見たこともない学者の英語の会話を超適当に訳して「納豆は!!」と報道した。

でもそれがばれたとき、彼らは「やらせなんてテレビ局はどこもやってる。」とか、「おもしろ可笑しいだけの番組を見て視聴率をあげてくれる消費者がアホだからだ。」とか一切言わなかった。

あくまで「あってはならないことが起こった」と言って謝ってた。下記の過去エントリにも書いたが、このことの方がちきりん的には笑えた。


で、あの時、ちきりんは思ったの。誰でもやってることは皆知ってるだろう。他の番組もおなじじゃん、と。でも、それを今マスコミが言うと問題になるから、言わないのだろうな、と。ちきりんはそう解釈してました。

しかし、違ってたようだ。彼らは「誰が」が問題なのか「何を」が問題なのか、というふたつの異なる問題を分けて考えてないんだね。

単に「何を」だけに注目している。今回の報道で、それがよくわかった。



このあたりがマスコミが世の中についてこれてない現状を象徴してるんでないかと思う。世の中はもはや「何を」だけを問題にはしてないと思う。「誰が」という点と、その関わりにおいて何を、つまり、「誰が何を」という組み合わせで、発言の意味を判断していると思うんだけどね。

今回の田中社長の発言に「ひでえやつだな」と思っている視聴者は、「彼が」そういう発言をしていることに憤っているのであって、「何を」の部分に怒っているわけではないと思う。つーかさ、「何を」の部分だけとりだせば、「そーだよな」と思っている人結構いるのでは?

しかし、それを報道しているマスコミは、この差に気が付いてないと思うのよ。そういう感じのする報道なのだわ。だって、気がついてたら別の報道があるだろう?と思うのよね。

マスコミ人としてどこに注目しなくちゃいけないか。「誰が」と「何が」の目のつけどころが違えば、行くべき場所が他にあるはずでしょ?違う?


まあ、その辺のシンプルさっつーか、単純さが、地上波ってことなんかね、とも思うけどね。


んじゃね。

★★★

過去のご参考エントリ


(1)安いミンチ製品を買わないお話
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20050615


(2)あるあるの捏造問題に関してのエントリ
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20070128