官僚は謝らない

今日読み始めた本(下記)は、戦後日本の移民政策の犠牲になった人を主題にした小説です。

主題がパワフルで非常におもしろい。いろんな賞をとってるのも納得です。

ワイルド・ソウル〈上〉 (新潮文庫)
垣根 涼介
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ワイルド・ソウル〈下〉 (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社
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これを読み始めた理由のひとつは、アマゾンに行きたいと思ったから。

どうせ旅行するなら、その国にちなんだ小説や本を読んでいきたい。

気持ちも高まるし、いろんな目でいろんなものを見ることができるから。

★★★

物語の時代は戦後 10年後くらい。1950年代の中盤です。

戦前・戦後、日本政府はすごい積極的に「海外移民政策」を推し進めてました。

犠牲者の方はそれを「棄民政策」と呼び、実際、その方が実態をよくあわらしています。

当時、日本政府が移民政策を進めた理由はずばり「日本には仕事も食料もないのに、人が多すぎる」ことでした。これは、高度成長の始まる 1960年代中盤までずっと続いています。


すごいことですよね。

ここ 10年くらいこの国はずっと「少子化対策」を叫んでます。

1965年までは、「人が多すぎるから海外に捨ててこい!」という政策で、「少子化対策」が 1995年からだとすると、その間たったの 30年。

たった 30年で、国の政策が文字通り 180度変わるなんて、けっこうすごいと思いません??

20歳の時に言われてたコトが、50歳になったらまったく逆になってるんですよ。


ベルリンの壁が壊れるとか、戦争が起こるとかは、誰も見通せません。

でもこれは「人口政策」です。

人口なんて、すごい先まで見通せるんです。

20年後の 20才の人の人口は、もう今既に「確定値」なんですから。

そんな分野で、30年間の最初は「人、多すぎ。どっか行け」と言っていて、最後は「とにかく生め」って・・・・なんなんだ? 

しかも「棄民」を始めるその 10年前は、戦争のために「生めよ育てよ」と言っていた時代です。

変わり身が早すぎ。

1960年代には、ご存じ北朝鮮への帰国事業も国家がかりで推進されていました。

これも「祖国へ帰す」という美名の下の「人減らし」政策でした。あの頃、本当に日本は「人が多すぎた」のです・・・仕事や食糧に比べて・・・。


もうひとつ。この「人減らし政策」において、「北朝鮮は地上の楽園」「南米に移住すればすぐに大農園主」などと騙された人たちの多くは、当時の日本において非常に苦しい立場にいた人だということです。

朝鮮・韓国の人は、日本の敗戦でちょっとだけ解放されたけれど、基本的には戦前と変わらない人種差別に悩まされていました。

南米に捨てられた日本の人たちも、多くが山間の痩せた土地の貧農です。

1960年代、日本は既に高度成長という靴に片足をつっこんでいた(はずだ)けど、そんな時代にも「この国には全く希望が持てない人たち」がたくさんいて、彼らこそが「夢の国行きの船」に乗り込んだわけです。

「官僚は日本の高度成長を支えた(今は役に立つことやってないけど)」という人がいるけど、「ほんとに?」って思いますよ。人口が多すぎて邪魔。じゃあ、外に捨てちゃえ、てのはまともな「国の政策」なの?

こんな無茶ができるなら、なんでも解決できる。「35才までに二人の子供生まない女は死刑」とかにすれば少子化も解決できちゃう。でも、そんなのは解決方法とは呼ばない。


というわけで、この本を読んで思ったのは、「国の言うことなんてきいてたらあかんね」ということです。

今は少子化少子化ってうるさいけど、30年たって移民が入ってきてその人達がすごい勢いで子供生んで、反対の問題が起こったら、

この国の政府は総ての育児手当を打ち切って、保育園も閉じて、義務教育もぜーんぶ有料にししそう・・・


国を訴えた人がおっしゃっていたよ。「求めているのは、補償ではなく謝罪なのだ」と。

そう。でも、それは本当に難しい。

なぜならこの国では・・・・官僚は決して謝らないから。

だから、彼らの言うことなどきいてはならないのですよ。


全体最適のために個別の構成員が犠牲になる必要は全くない。国が言うことは、あなたの幸せのためのものではなく、国の(全体の)ためのことだから。

なんで国が「ニート対策」とか言い出すのでしょう? 国がニートを無くしたいのは、将来の税金を払う人が減るからだよね。


本当にインパクトのある本でした。
外交官を目指す若い人たちは、まずはこの本、読んだ方がいいんじゃない?


ではね

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そんじゃーね

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