「下流喰い」感想

久しぶりに本を読みました。新書で「下流喰い」消費者金融の実態、という本。テレビにもよくでている須田慎一郎さんの本。おもしろかったです。

ポイントはふたつ。
(1)消費者金融業界がいかに悪であるか、の徹底的な証明&説明
(2)下流と下流で騙しあう構図の指摘

★★★

(1) について、非常に具体的でビビッドです。

「サラ金は、資金ニーズがあるから応えているのだ」とか「借りた金は返すべき」という、業者側がよく使う「一見なるほど」な言葉の「大嘘」をきちんとついていて、読み手が確固たる意見を持てるようになります。

また、グレー金利の意味を具体的に計算してみせたり、サラ金の顧客像のデータを明示することで、数字の意味するところがよくわかります。


(2) はユニークな視点。これぞ格差問題、って感じです。

ここでは、「サラ金によって人生を滅ぼされる人」も「サラ金側」も実は「同じ層の人間である」ってことを言ってます。

カナメには暴力団が介在するわけですが、それ以外は両方が「同じ側の人」だと。
つまり、いわゆる「下流」であり、いわゆる「負け組」だと。

騙している方も騙されている方も、どっちも。


サラ金の異常な押し貸し(無理矢理、借金させること・・大手サラ金でも恒常的に行っている)と過酷な取り立てで一家自殺した人たちは、紛れもなく「下流」だし「負け組」として描かれる。

だけど、その家族を死に追いやる「取り立て役の若者たち」も、田舎からでてきた中卒だったり高校中退だったりの、都会で他に生きていくすべを持たない、負け組構成員に他ならない。

彼らはこの取り立ての仕事で、生まれて初めて「人よりうまくできること」を見つける。生まれて初めて、成果をあげて尊敬されるのだ、と。


これはちょっとユニークな、意味ある視点だと思いました。

なぜなら、消費者金融問題が「被害者も加害者も下流の人たち」の中で完結するならば、上流の人たち、勝ち組の人たちはこの問題を、「どうでもいい問題」と認識するようになるだろうと思ったから。

これがもし「下流の人が上流の人を脅かす」問題であれば、上流の人たちは問題を解決しようと動くでしょう。

彼らは選挙にもいくし、政治的にも経済的にも行動的にも、問題解決しようという意思と影響力を持つ層だから。

だけど、「搾取者も被搾取者も“あっち側の人たち”」となってしまうと、「危ないから近づくのはやめよう」ってことになるかもしれない。


例えばアメリカでも、お金持ちの住むエリアに連続強盗や放火魔が出てくると、警察も動くし、金持ちも自衛に金をかけてそれを阻止する。

でもスラムエリアで日常的に放火やレイプや強盗が行われても、誰もなんのアクションもとらない。

「旅行者の方はこのエリアに近づかないように」ってのと同じです。そんなとこ近づかなければいいだけ。

反対に言えば、問題は「放置される」


格差問題というのは、大半を占めていた中流の人たちが上と下に別れていく(大半は下へ)プロセスでもあるわけですが、その「下の方でなんかややこしいことが起こってるらしいね」という感じになる。

この問題、私は今までも「世の中無関心だなあ」と思っていたのですが、その理由がわかった気がする。

「関係ない人には全く関係ない問題」になりつつあるんではないかと。

ただし現時点で「オレは関係ない」と思っていても、中流はいずれ「下流」と「上流」にわかれるのだと考えると、将来的には関係あったりするわけですが、いずれにせよ、関係ない層には全然関係ない。


この本の中で「怖いな〜」と思ったのは、次の記述。

いま足立区内でマンションを購入しようとすると、都心から近いにもかかわらず相場は 1000万円から 2000万円。

区内にあった旧都銀の支店は相当部分が撤退し、区内にそれなりのネットワークを持つのは、都の指定銀行であるみずほ銀行くらいで、無人のATM店が数店、存在するのみというありさまだ。

実際に区内を歩くと、スーパーやコンビニの店舗がやけに少ないことも実感としてわかる。


これ、「なるほど〜」なわけです。今まで銀行って「とりあえずどこでも」支店を出してました。

でも今は銀行は中間層以上の層にしか関心がないんです。だから、そういう層のいないエリアから撤退しつつある。無人ATMさえ数少ないって・・・怖すぎない?

でも実際、アメリカの街を思い浮かべると、「危ないから近づくな」と言われるエリアには、他のエリアには普通にあるそういった店舗が非常に少ない。

そういう場所からビジネスをひきあげちゃうわけ。んで、そういうエリアには「そういうエリアだけの店」ができはじめる。

著者は、同エリアには「かわりに、このエリアにはサラ金の無人機が集中した場所がたくさんある」という。

つまり、このエリアでは、住人が現金を“手に入れる”ために必要なのは、銀行ATMでなく、サラ金ATMだと。

著者はたまたまこのエリアの出身だし、取材としても歩いているわけですが・・・そもそもこのエリアに一生行かない人もいるわけです。マンハッタンの100以北に行ったことのないニューヨーカーがいるように。

特定のエリアでは違法な商売や取り立てが横行し、しかし、それらの問題は放置される。そして、その恐ろしげな闇の商売に従事している若者の大半は、そのエリアで生まれ育った者たちだ、と。

そして、そんなエリアに「近づかないよう」教育され、実際入ったこともない人たちが一方で存在する。スラムってこうやって形成されるのだ。


「消費者金融問題は、そういう問題だ」と、著者は指摘する。


この本は結構おもしろかったです。



んではね〜

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/