ちきりんが“社会派”になったきっかけ、正確には「社会派だとわかったきっかけ」が一枚の葉書だった、という話はずいぶん前に書きました。
→「ちきりんが社会派になったきっかけ」
同じような体験で、もうひとつ別のことも思い出しました。小さい頃、と言っても小学校の高学年の頃。
私はあまり記憶力がよくなく、小さい頃の話はあまり覚えてないのですが、この体験は当時の父の口調が頭の中でそのまま響くくらいクリアに思い出せます。
それくらい衝撃だったし、人生が変わるきっかけになった体験だからでしょう。
それは 1月。成人式についての記事が新聞に載ってました。
当時の私は毎日 2,3 時間かけて新聞を隅から隅まで読むような子供だったので、その日も成人式の記事を熱心に読んでいたら、横から父親がのぞき込んで、こう言ったのです。
「成人式なんか意味ないで。そんなもん選挙運動やからな」
その時の父親の口調をそのまま再現できるくらいよく覚えてます。びっくりして声がでなかったです。
そ〜なんだ〜!!!
って感じ。
当時は小学生ですからね。
成人式ってのは、市役所が、「みなさん、大人になりましたね、おめでとう」って祝ってくれて「これからは大人なんだから、責任をもった行動をしてくださいね」みたいに言われ、大人としての自覚をもつためのセレモニーだと思ってたわけです。
それが「選挙運動??」って感じでしょ。
でも、いわれてみれば非常に納得できます。
だって二十歳になる人ってのは「今年か来年に、初めて選挙権を得る人」なんです。
選挙になんてまったく関心のない若者も多いけど、それでも初めての選挙くらいは行くって人もけっこういます。
だからその直前に、彼らをまとめて成人式に呼ぶ・・・。
そこで、挨拶するのは現役の市長!
そりゃー有利だよねー。
政治家のことなんか全く知らない「初めての選挙権をもった人」を市の予算を使って一同に集め、
自分の名前を大書した式次第を掲げて、「みなさん、おめでとうございます!」などと壇上から微笑み、挨拶する。
下手するとお土産まで渡す。
税金で。
すると半年後だか 1年後だか、彼らが初めての選挙に行ったとき、投票所の前に掲げられたポスターの中には「どっかで見たことある顔」があり、投票用紙をもらって候補者のリストを見ると、「ああ、この人、俺知ってる」人が出てる・・。
現役の市長さん等にとっては(どんなに市の財政が逼迫していても、どんなに暴れる人が多くても)「政治的に決してやめられないイベント」なのでしょう。
で、ちきりんは愕然としたわけ。
「意味なくない?? こんな毎日毎日、時間かけて新聞読んでても・・」と思ったのです。
新聞には「成人式と選挙の隠れた関係」なんてどこにも書いてない。
本も(当時は)よく読んでたけど、そんなこと書いてない。
ものすごい「だまされた」感がありました。
私はそれまで、社会のことや物事の本質をズバッと教えてくれるのが新聞なんだと思ってたんです。
まじめに一生懸命、教科書を勉強している同級生を横目に「教科書なんていくら勉強してもしゃーないんだよ。世の中がどー動いてるか、そんなもんには載ってないんだから。新聞読まなくちゃ!」とか言ってたマセガキ小学生だった私。
なのに・・・そんなもんには世の中の仕組みなんて全く載ってなかった。
衝撃!
あほらしくなった。
こりゃあかん、と思った。
だから、どーしたわけでもない。翌日からも私は毎日、長い時間をかけて新聞を読んでました。
でも、もう書いてあることを無防備に信じるちきりんではなくなってた。
「こう書いてあるけど、ほんとのところはどーなわけ?」という視点で読むようになりました。
つまり、これを機に私は「批判的視点」を手に入れたというわけ。
そしてそういう視点で読み始めたら、新聞が報じることには多くのタブーがあるとか、裏があることも次々と見え始めた。
あの父親の一言は、今考えても、とっても大きな意味があったと思います。
もちろん、父親にそんな“教育的”意図はありませんでした。父は自分が「あほらし」と感じていることを口に出しただけです。
公務員として働いていた父は、次の市長選に出ようとしてる議員や、国政選挙が近い地元国会議員らが「オレにも成人式で挨拶させろ!」と争っている様子を横から見ていたのでしょう。
(だから成人式ってやたらと何人も政治家が挨拶するでしょ?)
父は「地元の政治家」にとって、成人式がどんだけ大事かよくわかってた。
そして、日々新聞を熟読し“わかった気になっている”こましゃくれた娘に「んなもん読んでても世の中わからんで」と教えてくれた。
大人の「何気ない一言」が子供をいろんな方向に誘導します。子供はそういう体験を積み重ねながら育っていく。
親から子とか、大人から子供、子供から子供、いろんなきっかけで人間の性格って形成される。
私にとっては、あの一言がとても大きかったと思います。
メディアを鵜呑みにせず、現実を良く見て本質を見極めたい。そう思わせてくれた父の一言を、私は一生忘れないでしょう。